愛と癒しと殺人に欠けた小説集 / 伊井直行
お客様で友人のマキノさんから借りる伊井直行シリーズ第3段。旦那さまのオーガさんも、夫婦揃って、歩み寄ったわけでなく好きだという作家さんだと言うからよけい興味も湧くってもんですよ。実際、前に借りた2冊も面白く読めたけれど、「これが本命」というかんじで借りたのが今回の本。
私、今のところ伊井直行作品では、この本が一番好きです。
本のタイトルがいいと思う。ひねくれてはいるけど、「愛と癒しと殺人に欠けた」と言いたくなる気持ち、よく分かる。世の中「泣けました!」「最高の愛!」とか「謎の殺人」とか多すぎる。そういうものって何気ない日常を踏み間違えたり、ふとした瞬間に出会うものであって、声高に言われると萎える。実際本の中には愛は描かれていると思うし、癒しもある意味あると思うけど、それだけを取り立てて主張するものではない、私にとって物語ってそういうものだ。いろんな要素の中の一つとして、愛とか癒しがある。ただ、本の前書きがあることで、やや冗長な感じを受けた。タイトルだけで、分かる人には分かるし、そういう読者がこの本には共感するのではないでしょうか。
<ヌードマン>の「ただ一糸まとわない裸で外を歩きたいだけだ」という言葉に違和感なく納得してしまう。普通の世界にあるおかしな欲望、のはずなのだが、なんとなく誰にでもうっすらとありそうな欲望。服を脱いでいく描写がリアル。<掌>はなぜだか古き良き小説の空気を感じた。<ローマの休日>は自分の母と父がそこにいそうな、日記を盗み見たような不思議な感じ。<スキーへ行こう>は柴崎有香が描きそうな日常。気だるい感じが変に心に残る。こういうことってあるよな。<微笑む女>主人公に共感しやすい小説。小さな謎、このくらいの謎が、私の周りにもよくある。ラスト、謎が解けたような解けないような…ってところが逆に印象的。<えりの恋人>意外とこれが一番心に残った。ダイのいらつきや疑問や自分の誇示の仕方が「いる!」じぶんもそういうところがある、えりの抱えるうっすらとした迷いや矛盾が女っぽい。

