調理場は戦場?かもしれない。
連れ合いが近所の素敵な古本屋、上々堂で見つけて買って来てくれた本。
日本の最高峰のフレンチ、コート・ドールのオーナーシェフ、斉須政雄さんの仕事論が書き留められた「調理場という戦場」。
なんとも勇ましいタイトルなのだけど、穏やかな語り口ながら、やっている内容はまさに戦場並みの切実さ。
料理人の端くれとして、またレストランオーナーとして、興味本位で読み始めたけれど…私は確信した。「私がやってることは間違ってない」ってことを。
最高峰のフレンチレストランだろうが、三鷹の小さな家庭料理のレストランだろうが、本気であれば、やっている気持ちは同じなのだと、私は思った。私はこの考え方で、生きていくのだと自信を持った。
この気持ちは、同じ仕事をやったものじゃないと、本当の意味で共感できないだろうと思う。違う仕事に置き換えて、感心したり共感したりすることは多いだろうけれど、同じ飲食店のオーナーシェフをしている、スタッフ総勢10名程度のお店を率いている、そういう仕事と生活の中での実感がある…何となくではなく、言っていることがまざまざと私の中で「分かる」。
以下、本文から引用します。
「才能をどれだけ振り回してみても、あまり意味がないと思う。才能はそれを操縦する生き方あってのものですし、生きる姿勢が多くのものを生むからです。
才能というもののいちばんのサポーターは、時間と生き方だと思う。才能だけではダメだと思うのは、『時間や生き方なしでは、やりたいことの最後までたどり着かない』と僕が感じているからなのです。
仕事にあった生き方を持続できるかできないかが、才能の開花を決めるように思います」
「ギャルソンこそ、ほんとうはたいへん激烈な職能なのです。お客が何を望んでいるのかを推し量り、レストランにいる間の喜びを引き受ける大役を担うのです。
持っていく時の方法や置き方ひとつにしても、おいしさを分かつのは、ほんのちょっとのことなのです。お客さん側に意識の高揚があるかないかで、味覚は全然かわってしまう。
『マニュアル言葉でそらぞらしいことをお客に言ってくれるなよ』
…家庭的な雰囲気で、ありのままに自分の心を込めていれば、きっとサービスは伝わる。言葉の見せかけ上のきれいさに逃げないでほしいのです」
「『運命』という名前の楽譜を手にしても、それぞれが独特の演奏をしますよね。演奏の価値は、それぞれからにじみ出てくる個性ひとつでガラッと変わる。
それを人は『かれがえのないもの』と呼ぶわけでして…
調理場でも、ほんとうは人間の生き方から出るダシが『いちばんおいしいもの』なのです。」


